今年10月、フィリピンに最新鋭の競馬場がオープンする。これによりフィリピンのサラブレッド競馬界には長期的な拠点が与えられ、ホースマンは将来に信頼がもてるようになる。
コロナ禍はマカオとシンガポールの競馬を終わらせた。マカオでは3月末に競馬は終焉し、シンガポールでは10月5日に最後の競馬開催が行われる予定であり、それは間近に迫っている。一方フィリピンでは、熱心な競馬関係者はコロナ禍を行動を起こすきっかけとし、この賭事が伴うスポーツが確実に存続するように一丸となって取り組んだ。
フィリピンの3競馬場のうち2場が近年閉鎖され、首都マニラにあり国内で唯一稼働している競馬場、メトロマニラターフクラブ(Metro Manila Turf Club)は5年という短期の賃貸契約で運営されている。新たな競馬場、フィリピンジョッキークラブ(Philippine Jockey Club:PJC)が始動すれば、競馬開催日程を分け合うことになる。
新たな競馬場はダート馬場をメインとし、マニラから南におよそ90kmのパドレガルシア(バタンガス地方)の50ヘクタールの区画に位置する。早ければ今年10月に競馬開催を実施できるようになる見込みだ。
PJCを運営するHAPIジョッキークラブには、政府から25年間の営業許可が与えられており、証書にはドゥテルテ大統領が署名している。これによりバタンガス州・ラグナ州・カビテ州で競馬場を建設・運営できる。
PJCの理事であるマニー・ヴィレイ氏は、以前フィリピンで牧場を所有していた。マニラの競馬番組の解説者であり、馬購買エージェントとしても活動している。PJCは新競馬場の初期建設工事に10億ペソ(約30億円)を投資したと彼は述べ、本紙(ANZブラッドストックニュース)に対してこう語った。
「投資資金を集めたことで、生産者や馬主の団体を納得させることができました。そして新競馬場を運営するために国内の営業免許を政府から獲得する計画を考え出したのです」。
「私たちはお金もうけのためにではなく、馬と競馬産業のために何かを創造するためにここにいるのです」。
本紙は昨年、タイの投資家たちが国内の未開発地への競馬場建設を計画していると報じた。ひとつのグループが首都バンコクに焦点を当てている一方で、もうひとつのグループはイーサーン(タイ東北部)の土地の1区画を獲得していた。
しかしタイで計画されているものよりも、フィリピンの開発のほうがはるかに進んでいる。サンタアニタやチャーチルダウンズのような米国のダート競馬場をモデルにした新競馬場は、現役競走馬を1,400頭まで収容できるように設計されており、最初に1,200馬房が建設されている。
8人の調教師がこの施設への移転をすでに申請しており、彼らの管理馬は全馬房のおよそ7割を占めることになる。競馬開催は昼も夜も1周1600mのコースで実施可能である。厩舎スタッフの宿舎・獣医施設・調教馬場も敷地内に建設中である。
フィリピンのサラブレッド生産界は年間300頭~400頭を生産している。輸入される競走馬の大半は米国で購買されたものだ。
しかし、南半球シーズンに生産された馬を購買することは不利であるにもかかわらず豪州はフィリピンの馬主や調教師に格好の機会をもたらすと、ヴィレイ氏は述べた。
過去7年間に、フィリピンの購買者はマジックミリオン・ナショナル1歳セールで86頭を総額172万9,000豪ドル(約1億8,155万円)で購買している。同じ期間に、マジックミリオン2歳調教セールでは46頭を総額202万8,500豪ドル(約2億1,299万円)で購買した。
ヴィレイ氏は、PJCが"国際的な地位"を確立できると信じている。ただ、そのためにはフィリピンの馬主が競馬産業を維持するためにさらに多くの馬を輸入しなければならないと考えている。
また、輸入された牡馬の去勢を禁止するルールの撤廃を望んでいる。このルールはもともと、"国内の血統を改良するため"に導入されていた。
ヴィレイ氏はこう語った。「フィリピンには生産界があり、熱意のある生産者がほとんどです。ただ状況ゆえに、地元で生産することが困難なのです」。
「採算が合いませんし、供用できる種牡馬も、種牡馬を扱えるスタッフも限られています。解決策になるのは"輸入"です」。
「ふたたび馬の頭数を増やす必要があります。頭数を少ないままにしておくわけにはいかないのです」。
「投資家たちが新たに参入することを望んでいます。新しいプレイヤー、若い人たちに競馬に参加してもらいたいのです」。
エクワイン・インターナショナル・エアフレイト社(Equine International Airfreight)が豪州で調達した馬をフィリピンに輸送した。
ヴィレイ氏はこう続けた。「競馬委員会を通じて政府を説得し、税率を下げてもらうなり、空輸を利用するなりして、馬の輸入を補助してもらう特権を得たいと思っています。そうすれば、今後数年にわたって競走馬の頭数を増やすことができ、競馬の魅力は高まります」。
メトロマニラターフクラブは3,000ドル(約47万円)から大統領ゴールドカップの10万ドル(約1,550万円)に至る総賞金を、週に最大5日間実施される開催において提供しているが、賞金を下支えするために200以上の馬券発売の店舗が地元レースの馬券購入へのアクセスを容易にするだろう。
PJCは発売金を増やすために、ベッティングショップをほかの都市へも拡大する許可を政府から得たいと考えている。
大統領府の支配下にあるフィリピン競馬委員会(Philippine Racing Commission)が国内のサラブレッド競馬を統括している。一方、賭事面とパリミュチュアル賭事の運営はゲーム&アミューズメント委員会(Games and Amusement Board)が担当している。
新競馬場の一角には最新鋭の放送施設があり、PJCのレースを世界中に配信できるようになる。最終目標は、豪州のような国々がPJCのレースの馬券を発売できるようになり、レース映像をスカイレーシングで視聴できるようになることだ。
また、競馬開催の運営をサポートするために、裁決委員・実況アナウンサー・獣医師を海外から呼び寄せることも考えられる。
(1ペソ=約3円、1豪ドル=約105円)
[Racing Post 2024年5月20日「New racecourse in Philippines just months away from lift-off in much-needed boost to Asian racing scene」]