アジア競馬連盟(ARF)の会長は、競馬産業内の不和が競馬にダメージを与えていると述べた。そして豪州の州間の対立、英国の取組みのまとまりのなさ、米国でのHISA(競馬の公正確保と安全に関する統括機関)への抵抗などを例に挙げた。
札幌で開催された第40回アジア競馬会議のオープニング・ビジネスセッションで、ARF会長のウィンフリート・エンゲルブレヒト⁼ブレスゲス氏は、競馬は多くの面で課題を抱える"重大な岐路"に立っていると述べた。
ブレスゲス氏は「私たちはグローバルに考えなければなりません。とりわけ競馬のソーシャルライセンス(訳注:産業が活動を継続するには社会に貢献する必要があるという考え方)を維持するために必要な条件を整えなければなりません」と語り、競馬を正当なスポーツとして受け入れようとする一般の人々の姿勢について言及した。そして「競馬産業がより広いグループ、つまり競馬をやらない人たちからどのように見られているかという課題があるのです」と付け加えた。
ブレスゲス氏は香港ジョッキークラブ(HKJC)のCEOであり、IFHA(国際競馬統括機関連盟)の会長でもある。彼は「競馬界はコロナ禍のあいだに回復力を証明しました」と述べ、現在ではインフレ、高金利、ほかのギャンブル形態の拡大、消費者行動の変化など、一種のコロナ後遺症のようなものを乗り切らなければならないとした。そして、「ARCはこれらの問題などに取り組むのに理想的な場です」と語った。
ブレスゲス氏は、「特定の分野で構造改革が必要です。例を挙げましょう。レーシングオーストラリア(Racing Australia)を見れば、州ごとの構造と資金モデルがあります。つまり州間の競争が生じているのです」と述べた。
そして、競争は良いものと理解しながらも、豪州の場合は良くないとした。というのも、競争の結果、賭事プールが別々となり、パリミュチュエル賭事市場が希薄化し、馬券購入者を固定オッズ賭事に駆り立てることになっているからだ。これは競馬産業への収入を減少させることになる。
ブレスゲス氏は、「競合すべきではありません。結集して産業として団結し、一丸となって戦うべきです」と力説した。
英国も米国もARFの加盟国ではないが、ブレスゲス氏はそれらの国でも競馬界の分裂が見られると指摘した。そして英国の資金調達モデルを非難した。
同氏は、「競馬界の分裂という点では、おそらく最も苦労している国でしょう。BHA(英国競馬統括機構)の役員たちにとって、これは『ミッション・インポッシブル』だと言うつもりはありませんが、近い状況ですね。それにトム・クルーズさえ助けることはできません」と語った。
「英国競馬はおそらく世界で最も優れた競馬商品でしょう。しかし馬主へのリターンを見れば、微々たるものです。また競馬場にもたらされるリターンを見れば、将来やテクノロジーのために投資するには十分ではありません」。
ブレスゲス氏は次に、米国のHISAに対する法的な異議申し立てについて取り上げた。控訴裁判所の判決はそれぞれ異なり、最終判定は米国最高裁判所に持ち込まれる見込みだ。連邦取引委員会(FTC)のもと、HISAは米国の競馬開催州の大半において、安全性・薬物・アンチドーピングへの取組みを監督する。しかし、HISAは違憲であると主張するホースメングループや州からの数々の訴訟に直面している。
「HISAの設立は偉業でした。HISAは競馬の公正確保を保証する初めての連邦当局です。その結果、HISAが介入したおかげで、馬の予後不良事故は大幅に減少しています。それに競馬界の重大な課題のひとつ、競走中の予後不良事故率の低下もHISAは達成しています」。
「しかし、これについて訴訟を起こそうとする競馬参加者の利害によって、HISAは頓挫する危機に瀕しています。大きな懸念です。前回のアジア競馬会議でHISAの設立を素晴らしい成果として祝いましたが、いまや危機に瀕しているのです」。
ブリーダーズカップ協会の理事長兼CEOのドリュー・フレミング氏はパネルディスカッションに参加し、この評価に同意した。
「HISAがうまくいっているというブレスゲス氏のコメントに注目することは重要だと考えます。HISAの透明性あるデータによると、馬の怪我は38%ほど減少しています。何よりもまずHISAは連邦法であり、今まさに施行されているのです」。
By Bob Kieckhefer
[bloodhorse.com 2024年8月28日「Asian Racing Federation Calls for Unity Within Sport」]