第40回アジア競馬会議(ARC)の3日間において「社会的責任」というテーマが行ったり来たりした。JRA勤続50年のベテラン、後藤正幸氏が行った8月30日の閉会の挨拶にもそれは反映されていた。
ARC参加者の多くは、世界中の反対派から攻撃を受けつつも競馬を運営し続けるために「ソーシャルライセンス」が必要だとしている。後藤氏は、これを維持するために競馬界が取り組まなければならない嫌になるほどたくさんの問題を説明し、中でも「馬の福祉とアフターケア」、「責任あるギャンブルへの取組み」、「競馬の公正確保」を挙げた。
そして、「地域社会と確固たる基盤を築くことが不可欠です」と述べた。
また、競馬界は気候変動による温暖化にも順応しなければならないとも語った。暑さのために北米の一部地域ではすでに開催中止が余儀なくされ、香港では発走時刻の変更が生じ、ほかの競馬国では冷房設備が必要となっている。
発表者たちはARCの序盤で、夏場の競馬を東京エリアから極暑のない北海道に移す可能性について論じ合った。
「今後、抜本的な対策が必要であることは理解しています」と後藤氏は述べた。
また800人以上が参加したARCでは、生産・厩舎作業・調教・競走の業務を遂行するのに十分なスタッフを確保するのが難しいというほぼ似通った報告がなされた。国際サラブレッド生産者連盟(ITBF)のCEOサラ・カーマイケル氏は、競馬界はソーシャルライセンスの維持に苦労しているため、ほかの産業よりもその分野で大きな課題に直面していると指摘した。
そして「競馬産業で働くことに関心のある人に対して、社会的責任のある産業であることを示さなければなりません。評判の悪い産業にいるというレッテルを貼られたくないものですよね」と語った。
香港ジョッキークラブ(HKJC)が創設し主催しているワールドプールに対する支持もARC全体をつうじて広まった。ワールドプールは世界中の参加レースへの賭金を集約し、馬券購入者にはるかに大きなプールを提供し、開催競馬場の全体的な売上げと収入を大幅に押し上げる。
英国のアスコット競馬場の競走・広報担当理事であるニック・スミス氏は、ワールドプールへの参加はロイヤルアスコット開催にとって天の賜物だと述べた。
スミス氏は、「ワールドプールは状況を一変させる追加収入源をもたらしてくれました。賞金総額を初めて1,000万ポンド(約18億5,000万円)を超えさせるなど、いくつかの大きな改革を行うことができました。この部屋で驚きの声はあがらないでしょう。まったく違う世界なのです」と語った。
豪州のレーシングNSW社(Racing NSW)のCEOピーター・ヴランディス氏は、「ワールドプールは各国のビッグレースを呼び物にするので、世界中の競馬を救う可能性を秘めています。そのレースに焦点を合わせ、世界中の競馬ファンが馬券を購入することができるのです」と述べた。
ホースレーシングアイルランド(HRI)のCEOスザンヌ・イード氏は、「アイルランドでワールドプールを実施することで、ビッグレースの開催日はさらに輝かしいものになりました。本当にそうなのです。私たちはワールドプールの日をとても貴重なものだと考えています」と語った。
ただ、ワールドプールが万能薬ではないという考えもある。
レーシングクイーンズランド社のCEOジェイソン・スコット氏は「賭事プールをひとつにまとめるのが答えになるのかどうかについていくばくかの疑念があります」と述べ、ワールドプールだけではなく、豪州各地の賭事プールが統合される可能性について言及した。
「馬券は楽しいものでなければならず、ちょっとした違いがあったほうがいいのです。そうでなければ、競馬は死んでしまいます」。
そしてスミス氏は、ブックメーカーが提供する固定オッズ賭事はトート社をつうじたパリミュチュエル賭事とは違い、競馬界にあまり収入をもたらさないものの「ビルド・ア・ベット(Build-a-Bet)」のような元金と払戻金を繰り越して続けて賭けていく種類の馬券の売行きを促進すると指摘した。これはスポーツ賭事で爆発的な人気を誇っている。
By Bob Kieckhefer
アジア競馬連盟の会長と副会長を再選
アジア競馬連盟(ARF)の執行協議会はアジア競馬会議(ARC)前日の会合で、ウィンフリート・エンゲルブレヒト⁼ブレスゲス氏を会長に、後藤正幸氏、モハメド・サイード・アル・シェヒ氏を副会長に再選した。
任期は2026年の第41回ARCまで続く。
ブレスゲス氏はARFで2007年~2009年の任期を務めたあと、2014年に会長に選出されている。「競馬が直面しているたくさんの課題を乗り越えるために、大切な同僚やARF加盟国とひきつづき協力していくことを楽しみにしています。ARFを未来に導くことを私に託してくれた執行協議会のメンバーに感謝したいと思います」とブレスゲス氏は述べた。
後藤氏は、「ARF加盟国のために競馬界と生産界の強化に貢献し続けるチャンスを歓迎します。副会長に再選されたことを光栄に思います」と述べた。
2024年3月にARF副会長に初選出されたアル・シャヒ氏は、「再選されたことを大変ありがたく思うとともに、ARFが世界中のサラブレッド競馬にさらに貢献できるという期待に胸を躍らせています」と語った。
By Asian Racing Federation
(1ポンド=約185円)
[bloodhorse.com 2024年8月30日「Asian Racing Conference Urged to Heed Social Demands」、
8月28日「Asian Racing Federation Re-Elects Executive Council」]