海外競馬情報 2025年01月16日 - No.2 - 1
アスコットの賞金や登録の見直しが他の競走に与える影響(イギリス)【開催・運営】

 1月4日(土)、英国とアイルランドにおける障害レースは、馬場の凍結のため中止となった。雪が降り始め、タフで知られる英国の郵便配達員でさえ、半ズボンは敬遠する寒さだった。このような冬の寒さを背景にすると、夏に行われる平地の重賞競走がどうしようもなく待ち遠しく感じられる。ありがたいことに、アスコットでは少し晴れ間が見えてきた。

 天候と同様、英国競馬の財政状況はバラ色とは言い難い状況だ。それはジョッキークラブが2025年の賞金の凍結を発表したことからもうかがえる。それゆえ、アスコット競馬場が賞金の増額を発表し、その真摯な意向を示したのは称賛に値する。

 アスコット競馬場による賞金への年間拠出額は前年比7%以上増の1,010万ポンド(約19億7,000万円)となる。そのうちの少なからぬ部分が、アスコットで最も権威のある競走であると同時に、英国で最も重要な3歳以上の平地競走であるキングジョージ6世&クイーンエリザベスS(G1)に充てられ、同レースの賞金総額は125万ポンド(約2億4,300万円)から150万ポンド(約2億9,200万円)に引き上げられる。さらに、このレースに出走する馬の関係者には、追加登録の場合を除き、登録料の全額が返還される。

 これらの動きは、プラスに働くはずだ。キングジョージは低迷していると思われた時期もあったが、過去2年の開催では、最高峰にふさわしい競走へと戻ってきた。2023年の出走頭数は10頭で、その年のダービー馬オーギュストロダンらが顔をそろえた。同馬は9頭立てとなった翌2024年のレースにも再び出走したが、ゴリアットが後に凱旋門賞(G1)を制するブルーストッキングを抑えて優勝した。レースの価値が増大するのに合わせてアスコット競馬場が投資するのは、まったく理にかなったことである。

 アスコットはキプコ社がスポンサーから撤退したことで新たなスポンサーを必要としているが、キングジョージは今や英ダービー(G1)と並んで英国で最も価値のある競走となる。さらに重要なことは、激化する国際的な競争の中で、キングジョージの地位が強化されることである。凱旋門賞では、出走頭数が1桁台になることは極めて稀である。キングジョージは凱旋門賞ほどの価値も世界的な人気もないが、少なくとも10頭の出走を達成することが成功のバロメーターとなるはずだ。

  登録料を返還しても、必ずしも登録頭数は増えないかもしれない。その代わり、登録した馬の中からより多くが実際に出走することが期待される。G1レースの登録料が総賞金額の1.25%であることを考えると、アスコットは出走馬1頭につき18,750ポンド(約365万円)を返環しなければならない。これは、クリスマス開催のロングウォークハードル(G1)の賞金を15万ポンド(約2,900万円)から12万5000ポンド(約2,400万円)に減らし、その分を他の障害競走に再投資したのと同様に、大胆な変更である。

 レースの価値を下げることを望む者はいないが、このハードル競走は15万ポンドの賞金を正当化するのに十分な出走頭数を一貫して集められなかった。この状況に鑑み大胆ながら現実的な策を講じたことで、総賞金7万5,000ポンド(約1,400万円)の新しい障害競走であるバークシャーナショナルを起ち上げることができた。

 キングジョージの賞金増額によって、意図したものではないが、エクリプスS(G1)が英国の他の中長距離G1競走から置いていかれることは避けられない。ここ数年の出走馬にはエース級の馬もいたが、今季の賞金総額が昨年シティオブトロイが制した時と同じ75万ポンド(約1億4,600万円)という状況下では、エクリプスSはキングジョージの半分の価値しかないことになり、さらに出走馬関係者は登録料返還の恩恵も受けられないのだ。

 プリンスオブウェールズS(G1)と英インターナショナルS(G1)の2024年の賞金総額はそれぞれ100万ポンド(約1億9,500万円)と125万ポンド(約2億4,300万円)であったことから、エクリプスSは良くない理由で目立ち始めた。ジョッキークラブの厳しい財政状況を考えると、この問題を解決することは一筋縄ではいかないだろう。

 少し視野を広げてみると、馬主や調教師にとって最も受け入れられそうなのは、ハードウィックS(G2)、キングエドワード7世S(G2)、リブルスデールS(G2)、デュークオブケンブリッジS(G2)の早期登録締切の撤廃ではないだろうか。

 競馬場にとって、早期の登録締切は歴史的に賞金を支える有用な手段であった。レースの5~6日前に登録が締め切られる他の重賞競走と比べ、早期に登録が締め切られる競走では、登録コストが安くなる。しかし、早期登録締切の競走では、締切時点ではるかに多くの馬が登録するため、競馬場はより多くの資金を集めることが期待できるのだ。

 早期登録締切の競走は、支払った登録料が往々にして無駄になってしまうため、馬主や調教師にとってときに腹立たしいものである。2歳馬は通常デビューする前の時点からリステッド競走の登録をしている。また、キングエドワード7世SとリブルスデールSは、これまで英ダービーと英オークス(G1)よりも前に登録が締め切られており、追加登録が保険として設けられているとはいえ、理想的な制度とは言い難い。

 昨年のドンカスター競馬場のセントレジャー開催の中で行われた2歳短距離戦フライングチルダースS(G2)に出走した馬は、レースの6日前が登録締切であったのに対し、同開催の同じ2歳戦であるシャンペンS(G2)はレースの7週間以上も前に締め切られていた。シャンペンSの出走馬が晩成タイプの若駒で構成される傾向にあることを考えると、これは競馬場にとっての財政的なメリットを除けば、意味をなさない仕組みである。

 デューハーストS(G1)とフィリーズマイル(G1)は開催のほぼ2ヶ月前に締め切られ、ニューベリー競馬場で行われたミルリーフS(G2)も同様であった。賞金総額わずか9万ポンド(約1,700万円)のG2競走としては、満足のいくものではないだろう。

 不必要に早期に締め切られる競走は多くあり、特にアイルランドの競馬場は出走するかわからない陣営から登録料を徴収することに一層熱心である。

 昨年9月15日に実施されたヴィンセントオブライエンナショナルS(G1)とモイグレアスタッドS(G1)は、登録は6月26日に締め切られ、それよりもはるかに高額な追加登録の締切が7月31日に設定されていた。アイルランドではG3競走ですら早期に登録が締め切られる。一例をあげるとスノーフェアリーフィリーズS(G3)は総賞金額がわずか55,000ユーロ(約880万円)だったが、スタートゲートの開く24日も前に登録が締め切られた。締切後に追加登録をすることもできたが、その場合は賞金総額の10パーセントを支払わなければならなかった。

 英国とアイルランドの競馬場は、重賞競走の多くについて、登録手続きを少なくとも検討すべきだろう。賞金と登録の仕組みという点で、アスコット競馬場はライバルたちが考えなければならない課題を投じた。

By Lee Mottershead

(1ポンド=195円、1ユーロ=160円)

[Racing Post 2025年1月5日
「Ascot's programme and prize-money changes leave British and Irish rivals with difficult questions to answer]