1月20日にトランプ大統領がホワイトハウスに復帰することは米国にとっての節目であり、近いうちに競馬界にも大きな変化がもたらされるだろう。同大統領の外国人労働者および移民政策は再び米国サラブレッド産業に影響を与える可能性が高いからだ。
トランプ大統領は、彼の1期目の政策および今回の選挙公約に基づき、不法移民の取り締まりを強化し、合法的な外国人労働者の受け入れを削減する方針である。この政策は、おそらく全米の競馬場、牧場、調教師に影響を及ぼすだろう。外国人労働の専門家は、この方針によって、合法的な外国人労働者が威圧感を感じ帰国を選んだり、あるいはH2-Aビザ(季節農業労働者ビザ)またはH2-Bビザ(季節非農業系労働者ビザ)によって米国での就労を目指す他国の潜在的労働者が意思決定を変更したりすると考えている。
多くの政治アナリストがトランプ大統領が迅速に行動すると予測しているように、この政策は間もなく具体化する可能性が高い。
リバタリアン系シンクタンクであるケイトー研究所は、トランプ大統領のこの分野における1期目の政策を検証し、トランプ大統領は「合法移民の大幅な削減に成功した」と結論づけた。同研究所は、トランプ大統領の1期目の政権下では、合法的移民を63%削減することを望んでいたとし、その政権は「1期目の2020年11月までに、海外在住者へのグリーンカード(永住者カード)の発行数を少なくとも41万8,453件、非移民ビザの発行数を少なくとも1,117万8,668件削減した」と述べている。その減少には、新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックの影響もある。
オクラホマ州を拠点に、外国人の厩舎スタッフの支援を行っている移民弁護士のウィル・ヴェリー氏は、政策と優先事項の変更が業界で働く労働者の不足につながったと述べた。
「政策変更も良くないものでしたが、最悪だったのは、新型コロナウイルスがある中で、大統領がシステム自体を解体してしまった点です」とヴェリー氏は述べた。「政策を変更し、更に大統領は移民局が事実上機能しなくなる状態にしたのです。審査や就労カードの発行を行う人々を全員引き抜き、彼らを取り締まり業務に回してしまいました。日常業務は停止状態に陥りました。今まで90日で済んでいたことが、18か月もかかるようになったのです」。
H-2A(季節農業労働者ビザ)とH-2B(季節非農業労働者ビザ;ホテル従業員、リゾート従業員、建設、造園など)の申請手続きでは、雇用主はまず米国民に求人を出すことが義務付けられている。米国民で補充できない場合、初めて臨時外国人労働者で補充することができる。
ヴェリー氏と同じ法律事務所の共同経営者であるクレイグ・マクドゥーガル氏は、米国人が突然これらの職種を埋め尽くすことなどありえないと述べる。
「牧場の裏方の仕事に就きたいと熱望する米国人はそれほど多くないのです」とマクドゥーガル氏は語った。
もしそうであれば、外国人労働者減少は競馬界に影響を与えることになる。マクドゥーガル氏によると、昨年はH-2ビザの需要が大幅に増加したが、H-2Aビザには上限がない一方で、H-2Bビザには春と秋でそれぞれ33,000人の上限が設けられていた。同氏は、春だけで150,000人が申請したと見込んでいる。労働省は最近、2025年度向けにH-2Bビザを追加で64,716人分割り当てた。
競馬場での厩舎の仕事は非農業(H-2B)と見なされる。そしてH-2Bビザで一時的に入国できる人数には限りがある。競馬産業は他の季節労働産業とH2-Bビザの労働者を奪い合うことになる。仮に、米国市民が競馬関連の仕事を今のまま敬遠する中で、新たな規制によって訪米する外国人労働者がさらに制限されるとなると、競馬界は労働者不足に直面する可能性がある。
全米サラブレッド競馬協会(NTRA)は競馬界のためにロビー活動を行い、今後数年間はこの問題を最優先事項として取り組むとしている。ヴェリー氏は、競馬界のために非公式の「例外規定」が設けられる可能性はあると考えている。行政が競馬場と地方当局を信頼し協力しながら、労働力不足を解消しつつ悪質な移民労働者を排除していくというものである。
もちろん、外国人労働者政策は競馬界が懸念する多くの問題のひとつに過ぎない。トランプ政権の1期目には、他にも競馬界にとって重要な変化があった。
• 2017年、米国財務省および内国歳入庁は、パリミューチュエル賭事による収益の源泉徴収および報告に関する規制を近代化すると発表した。NTRAは長年これらの変化に向けて取り組んできたため、馬券購入者に前向きな影響を与えるこれらの改定を歓迎した。
• 2017年の減税および雇用創出法には、設備に対するボーナス減価償却が含まれていた。アメリカン・ホース・カウンシル(American Horse Council: AHC)は、牧場の事業運営に使用される農機具及び繁殖用家畜や競走馬は、この大幅な控除の恩恵を受けると指摘した。レキシントンのディーン・ドートン会計事務所で公認会計士として、また同社の馬関連業務を統括するジェン・シャー氏は、2019年に『ブラッドホース』誌に寄稿し、減税・雇用創出法に盛り込まれた減価償却の優遇措置はサラブレッド馬と農場の所有者の利益につながると述べた。
• 2019年12月、トランプ大統領は全ての競走馬の3年間の減価償却措置を延長する法律に署名した。これは超党派の支持を受けた。
• 2020年12月、トランプ大統領は、1期目の最後の公務のひとつとして、競馬公正安全法(Horseracing Integrity Safety Act)の承認を含む一括法案に署名した。同法は競馬の安全性の問題、アンチドーピングの取り組み、薬物管理の監督を抜本的に見直す画期的な業界法である。
今後4年間に競馬界が直面する他の問題も浮上することは確実だが、選挙戦で移民政策が重視されたこともあり、この問題は業界内の多くの人々の関心事となっている。
グラハム・モーション調教師は、犯罪歴のある人物の滞在を認めることに賛成しているわけではないが、米国で合法的に働いている人々を国外追放するような大統領令が発令される可能性を懸念している。同氏は、競馬産業の労働力の80~90%は外国人労働者であると推定しており、そのような動きがあれば競馬が立ち行かなくなると考えている。
「移民に頼っているスポーツやビジネスにおいて、労働力に対するより強硬な政策が我々の求めているものだとするのは短絡的です」と彼は語った。
11月にケンタッキーホースメンズ共済協会(Kentucky Horsemen's Benevolent and Protective Association: KHBPA)の会長に選出されたデール・ローマンズ調教師は、正式な書類を提出している外国人労働者の他に、国内の競馬場には不法滞在の外国人労働者もいると述べた。しかし、彼は次期政権について、「誰もが不安を抱いていると思います。ただ、トランプ大統領の言っていることは犯罪者の排除であり、我々の業界には手を出さないことを願っています」と付け加えた。
ローマンズ氏はビザ取得の難しさを嘆き、雇用主が合法的に労働者を雇用しやすくなるよう政府に働きかけたいと述べたが、「今ではほぼ不可能です」と彼は言った。
ヴェリー氏とマクドゥーガル氏は、厩舎労働者にできるだけ多くの情報を提供しようと、競馬場を訪問している。合法的な労働者は、自分たちが確固とした立場にあることを理解しているようだ。
「厩舎関係者に情報発信している人は誰なのか知りませんが"上手な"説明をしているのだと思います。なぜなら、私たちが話をした人たちは皆、トランプ氏は『悪人』だけを追及しており、彼らを追及しているわけではないと信じ込んでいるからです。それは奇妙でした。現に強制送還命令が出ている非正規滞在者のことを話しているのですが、誰もが口を揃えて言うのです。おそらく彼らはパニックにならないように『私たちを狙っているわけじゃない』と自分に言い聞かせているのでしょう」とヴェリー氏は語った。
マクドゥーガル氏は、労働者も競馬界も適応していくだろうが、現状では不明な点が多いと述べた。
「私が心配しているのは、強制送還命令がどれほどの規模になるのかわからないことです。実際問題として、命令を実行に移すには、多くの問題があります」とマクドゥーガル氏は語った。
ローマンズ氏は、ビザ保持者が帰国し、米国への再入国を希望した場合に何が起こるのかについても懸念している。
「彼らが帰国し、再び戻ってくる時期が来たときに、更新手続きがどうなるのかが心配です。H-2Bビザは、私たちの業界に唯一適合するものであり、取得するには煩雑な手続きが必要で、しかも10ヶ月間しか有効ではありません。もっと良い方法があるはずです」と彼は語った。
By Joe Perez
[bloodhorse.com 2025年1月19日
「Foreign Worker Policy Changes Figure to Impact Racing」]